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2026/07/06

「固定バンド不要」で行う顔の脂肪吸引について

顔の脂肪吸引後のフェイスバンド

このところSNSなどで「顔の脂肪吸引後の固定バンドは不要!糸リフトを併用すればしっかり圧迫できる」という説明を目にする機会が増えました。ダウンタイムの負担が減るように聞こえるため、おそらく魅力的に感じる方が多いのでしょう。

もちろん施術に対する考え方や方針はクリニックやドクターによって様々ですので技法などを否定するつもりはありませんが、とはいっても「圧迫固定」と「糸リフト」は治療の目的も身体への作用も全く異なる処置となるので、今回はそれぞれの本来の役割を整理して、「なぜ糸リフトが固定バンドの代わりにはならないのか」「そもそも糸リフトの併用が必要なのはどんな人か」といった部分を、できるだけ客観的に解説できればと考えています。

繰り返しになりますが、特定の技法を否定する意図はなく、あくまで「圧迫」という機能面から見た事実を整理するためにお読みいただければと思います。

【目次】
そもそも「圧迫固定」は何を目的としているのか
対して「糸リフト」は何に適した治療なのか
「特殊な糸だから固定できる」のは本当か
圧迫固定がうまくいかないと起きうるリスク
糸リフトの併用が特に不要なケース
逆に糸リフトを併用したほうがいいケース
当院における脂肪吸引のポリシー

●そもそも「圧迫固定」は何を目的としているのか

改めての解説にはなりますが、脂肪吸引はカニューレという細い管を皮下に挿入して脂肪細胞を吸引して除去する治療です。ただし脂肪細胞の周囲には毛細血管が細かく走っているため、施術の際にはどうしても一部の毛細血管にダメージを与えながら処置を行う形となります。これはどれほど熟練した執刀医が行っても同様で、術中に細い血管が傷つくこと自体は避けられません。

また脂肪を取り除いた場所には「デッドスペース(隙間)」ができます。手術後はこの隙間に毛細血管などから流れ出た出血(血液)や麻酔液、組織液が溜まります。これが術後に生じる内出血やむくみの正体で、圧迫固定(フェイスバンドやテープ)はこのような体液・麻酔液に対して主に以下の3つの役割を果たしています。

①止血
傷ついた毛細血管からの出血を、外側からの圧力で早期に抑える

②デッドスペースの減少
皮膚を組織に密着させ、血液や体液が溜まるスペース自体を減らす

③腫れ・むくみの物理的な抑制
炎症による腫脹を面で押さえて広がりを抑える

ここで重要なのは、上の3つの役割がいずれも皮膚全体を「面」として均等な力で圧迫しているという点になります。

また圧迫固定は本来、出血や炎症が最も強く出る「術後72時間前後」は必要であるといわれています。この期間の圧迫が不十分だと、血液や体液が過剰に貯留し、感染や拘縮(皮膚のつっぱり・硬さ)といったダウンタイム遷延の原因になり得ます。

●対して「糸リフト」は何に適した治療なのか

糸リフト(スレッドリフト)は1990年代後半に登場した治療法で、特殊な糸を皮下に挿入し、下垂した組織を狙った方向に引き上げる目的の施術です。登場以来、たるみ治療として世界的に普及してきました。

糸リフトの作用機序は、コグが皮下組織に引っかかることで、その部分を「点」または「線」として支えて狙った方向(多くは斜め上方向)へ牽引することにあります。これは下垂した組織を持ち上げる、あるいは吸引後にできた皮膚のたるみを目立ちにくくするという「リフトアップ」を目的とした治療であれば有効ですが、「皮膚全体を面として均等な力で外側から押さえる」という作用機序は持ち合わせておりません。

つまりまとめると、糸リフトは「引き上げる」ためのリフトアップ術であるといえます。そのため圧迫固定の目的である「面で押さえる」という働きについては、形成外科的な観点で見れば作用機序・構造いずれの面で見ても、圧迫固定と同じ働きをするものではないと考えられます。

●「特殊な糸だから固定できる」のは本当か

ただし、本当に「圧迫固定専用」として開発された特殊な糸を使用しているのであれば、もしかするとその糸にだけは圧迫効果があるのかもしれません。
糸の素材(PDO・PCL・PLLAなど)やコグの形状によって組織を引っかける力(保持力)が異なるのは確かに事実です。ただしこれは、糸が組織から抜けにくいという、アンカー(固定点)としての「強度」の話にすぎません。圧迫固定に求められているのは、皮膚全体を均等な圧力で覆い、内出血や体液の貯留を「面」として防ぐ機能であり、この働きとは性質が異なります。

イメージしていただければ皆さんも同じように感じるのではないかと思いますが、糸を数本入れたとしても、それらは線状・点状に組織を支えているに過ぎず、皮膚全体を面で押さえることができる、とは物理的に考えにくいのではないでしょうか。

ちなみに補足となりますが、「糸リフトを併用するとダウンタイムが短く感じる」という患者様の感覚については、恐らく間違いではないと考えています。
糸を挿入することで剥離された組織がその場にある程度保持される形となり、血腫がその場から広範囲に広がりにくくなる、という効果は理論上は考えられます。
ただしこれを直接検証したデータがあるわけではないため、あくまで力学的な推測にはなります。また仮にこうした局所的な効果があったとしても、それは特定の剥離ライン付近に限られる作用であり、圧迫固定で使用するフェイスバンドのように顔全体を均一な圧力で覆う「面」での圧迫とは別物となります。
「ダウンタイムが軽く感じられる」ことと、「止血・デッドスペース管理としての圧迫固定の役割を代替できる」ことは切り分けて考える必要があります。

●圧迫固定がうまくいかないと起きうるリスク

圧迫固定が不十分な場合、以下のようなリスクが指摘されています。

・むくみが長引く
止血やデッドスペース管理が不十分だと、血液やリンパ液が長く体内に残り、その分むくみや腫れも長期化する傾向があります。

・皮膚のデコボコ・たるみ
身体の中でも顔は皮膚が薄い部位のため、皮下に僅かであっても隙間が残ると皮膚のデコボコやたるみの原因になりやすい特徴があります。

・左右非対称
フェイスバンドであれば物理的に左右均等に圧迫することができますが、糸リフトは医師が皮下に挿入する方法で行うため、左右の仕上がりに差が生じることがあります。

・血腫・漿液腫(しょうえきしゅ)・拘縮
デッドスペースに血液が溜まりすぎると、、血腫・漿液腫(しょうえきしゅ・セローマ/リンパ液などによる透明な体液)や皮膚の硬さ・つっぱり感(拘縮)といったトラブルの一因にもなり得ます。

もちろん上のようなリスクは正しく圧迫固定をしたからと言っても「100%」完全に防げるものではありませんが、それでもダウンタイムの症状緩和と合併症予防の観点から見れば、やはり圧迫固定は重要なプロセスであると考えています。

●糸リフトの併用が特に不要なケース

ちなみに「脂肪吸引+糸リフト」については、圧迫固定の代わりとしてではなく「皮膚のたるみ予防」「引き締め強化」として併用が推奨されているケースも多いです。これは物理的にも医学的にも理にかなっているため、私も実際に施術の際に併用することがあります。

ただし以下のような方については糸リフトまでセットにするのは少々盛りすぎと言いますか、脂肪吸引単独でもしっかりと効果を実感できることが多いように感じます。

・皮膚の弾力(ハリ)が十分にある
・皮膚のたるみが目立たない
・皮下脂肪量(吸引量)が軽~中程度とそこまで多くない

そのため30代以下の方や脂肪がそこまで多くない方については、糸リフトを併用する必要は高くないと考えています。

●逆に糸リフトを併用したほうがいいケース

40代以上の脂肪吸引症例

一方で、以下のようなケースでは糸リフトなどのリフトアップ系治療の併用が推奨されます。実際に当院でも、このような際には脂肪吸引単独ではなくリフト系治療を併用する形で施術を行っています。ただ併用する治療は、糸リフトには限定しておらず、照射系治療(ウルセラ/HIFU、サーマクール/高周波)やペリカン手術・魔女顎手術などもご案内しています。

◎皮下脂肪量が中等度以上で、皮膚に余りが生じやすい方
脂肪吸引は、あくまで皮下の脂肪細胞を除去する治療です。そのため吸引後に皮膚表面がきれいな仕上がりになるかどうかは、皮膚自体が持つ「収縮力」によるところが大きく、脂肪量が中等度以上の方の場合、除去するボリュームが大きい分、皮膚の自然な収縮力だけでは余った皮膚を吸収しきれず、たるみとして残ってしまうことがあります。このような際には糸リフトで物理的に組織を引き上げることで、皮膚のたるみをできるだけ防ぐことができます。

◎皮膚の弾力低下がみられる40~50代以降の方
皮膚の収縮力は真皮に含まれるコラーゲンやエラスチンといった線維成分の量や質に左右されます。これらは加齢とともに減少・変性していくため、40・50代以上になると若い頃よりも皮膚自体の「戻る力」が次第に低下します。そのため、脂肪量が軽度であっても皮膚の弾力が低下している場合は、吸引後に皮膚がうまく収縮しきれず、たるみ・ゆるみとして残りやすい傾向があります。こうした年代の方では、糸リフトを併用してあらかじめ引き上げておくことで、脂肪吸引後の皮膚のたるみを予防しやすくなります。

◎口角外側のふくらみ(ジョールファット)が気になる方
ジョールファットがある口角の外側から顎にかけての部位は、もともと重力の影響を受けやすく、加齢とともに脂肪組織ごと下垂しやすい場所です。

そのため元々の皮下組織の状態によっては、この部位に脂肪吸引だけで処置を行うと、術後に下垂した皮下組織が逆に目立つ状態となり、たるみが生じることがあります。このような際には皮下組織をリフトアップする糸リフトのような施術を併用することで、口元のたるみを予防することができます。

●圧迫固定と糸リフトに関する当院の考え方

脂肪吸引後の圧迫固定は、特定の医師だけが主張している個人的な考え方ではありません。脂肪吸引の歴史の中で、術後の腫れや内出血、浸出液の貯留を抑え、皮膚と皮下組織を安定させる目的で、長く行われてきた一般的な術後管理の一つです。
一方、糸リフトに関する医学文献では、その主な目的は皮膚や皮下組織を牽引し、たるみを改善することとされています。つまり、糸リフトは「引き上げる治療」であり、フェイスバンドのように外側から広い範囲を均一に圧迫する治療ではありません。

もちろん、術後圧迫については部位や術式によって考え方に差があり、圧迫固定の有用性をどこまで重視するかは医師によって異なります。ただし、少なくとも現時点で「糸リフトが脂肪吸引後の圧迫固定を医学的に代替できる」と示した質の高い文献が十分にあるとは言えず、この1、2年で「脂肪吸引後の圧迫固定は不要であり、糸リフトで代替できる」という考え方が新しく美容外科領域の標準的な見解として大きく置き換わるような新しい文献発表や学会発表が広く認知されているわけでもありません。そのため当院では、糸リフトの併用そのものを否定しているわけではありませんが、糸リフトを「圧迫固定の代わり」として説明することには慎重であるべきだと考えています。

今回伝えたいことは、脂肪吸引後に必要な「圧迫」と、たるみを改善するための「リフトアップ」は同じものとして混同しないことが非常に重要であり、糸リフトが必要な方には有効な治療ですが、それはあくまでたるみを引き上げるための治療であり、術後の組織を外側から均一に固定する圧迫固定とは役割が異なります。

●当院における脂肪吸引のポリシー

以上を踏まえ、当院では次の方針で診療を行っています。

〇脂肪吸引後は3日間の圧迫固定を行っていただきます
糸リフトの併用有無にかかわらず、脂肪吸引後の圧迫固定は全ての方に必要なプロセスとしてご案内しています。

〇医学的根拠に基づく判断
皮膚のハリが十分にある若い方に、必要以上の施術を追加することは推奨しません。逆に、皮膚のたるみが気になる年代の方には、医学的根拠に基づいて併用をおすすめする場合もあります。

〇併用治療は「必要な場合」にのみご案内
糸リフトの併用は「圧迫の代わり」としてではなく、皮膚のたるみ・弾力低下・脂肪量に応じた「リフトアップ効果」を目的として、お一人おひとりの状態を診察した上でご案内します。

〇糸リフト以外の選択も可能
当院では糸リフト以外にウルセラ・サーマクール・手術によるリフト術なども行っておりますので、もしリフト治療が必要な際には、幅広いラインナップから施術をお選びいただけます。

繰り返しになりますが、クリニックや医師によって施術へ対する考え方・捉え方は様々であって当然だと考えてはおります。今回は、当院における脂肪吸引に対する考え方についてまとめてみました。もし施術法などにご不安な点があれば、カウンセリングで遠慮なくご相談ください。遠方の方やご来院が難しい方向けには、メールによる無料の画像相談も行っておりますのでご活用ください。
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※本記事は一般的な医学的知見の整理を目的としたものであり、個々の症例における効果や結果を保証するものではありません。施術の適応については、必ず医師によるカウンセリングでご相談ください。

※記載されている料金やリスク・副作用、施術内容はブログ投稿時の情報となります。最新の情報は変更となっていることもあるため、詳細は当院までお問合せ下さい。

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監修医師
みずほクリニック

札幌医科大学・大学院卒業。米国フロリダ・モフィット国立癌センター勤務(ポストドクトラル・フェロー)後、札幌医科大学・形成外科 助教、北海道砂川市立病院・形成外科 医長、大塚美容形成外科(大塚院・金沢院・名古屋院など)を経て、2014年みずほクリニック開院。 免許・資格:日本専門医機構認定 形成外科専門医、日本美容外科学会・正会員、医学博士